ある会合で話した内容です。
◉12.28「合意」への評価と限界
2016年2月26日 東京新聞 五味洋治
■ 評価
いわゆる慰安婦問題についての合意[1]が昨年末にまとまった。合意のおかげで日本の中の嫌韓感情が落ち着きを見せるなど一定の効果を挙げたことを評価したい。この問題をめぐる両国の和解という点では、全く進んでいない。「政治的妥協」と言っていい内容であり、当事者の納得も十分ではない。
■ 過去の謝罪
かんこくに向けられたものは決して多くない。
1965年 椎名悦三郎外相 「不幸な期間があったことはまことに遺憾な次第でありまして、深く反省するものであります」
1990年代 慰安婦問題が韓国で問題化
1992年1月8日 挺対協が日本大使館前で水曜デモ開始
1993年8月4日 河野洋平官房長官談話 「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」。元「慰安婦」の方々に「心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる」表明
1995年8月15日 村山富市首相談話 「植民地支配」に「痛切な反省」と「お詫び」
2011年8月 韓国の憲法裁判所が元慰安婦の賠償問題で、韓国政府の取り組みが「不十分」
同年12月 ソウルの日本大使館前に少女像設置 野田首相が撤去要求 李明博大統領は「誠意ある措置なければ第2、第3の像ができる」
■ 朴政権発足以降の日韓関係
問題をこじらせたのは、韓国側のかたくなな姿勢、日本の世論の読み違い。日本側の韓国の国内外事情への理解の浅さも。[4]
例えば韓国の経済的発展、中国との関係強化の動き、朴大統領の北朝鮮問題への意欲、安倍首相の歴史観への疑い
2013年
2月25日 麻生太郎副総理が朴槿恵大統領と会見。麻生氏が、日韓関係を南北戦争にたとえ険悪なムードに
6月17日 朴大統領が日本より中国訪問。
2014年
8月 産経新聞の加藤支局長をインターネットに掲載したコラムで在宅起訴
2015年
6月 明治日本の産業遺産革命の世界遺産申請で韓国が反発
12月28日 日韓が慰安婦問題で合意
12月30日 韓国挺身隊門痔開協議会が合意批判、少女像増設宣言
2016年
1月7日 安倍、朴電話会談 慰安婦合意の重要性確認
1月12日 安倍首相「少女像移転されると理解」(衆院予算委員会の答弁)
1月22日 安倍首相 「韓国は戦略的利益を共有する最も重要な隣国」と表現(施政方針演説)
1月26日 自民党外交部会が「少女像の想起撤去」求める決議
2月2日 韓国外務省報道官 「慰安婦合意非常に重要」
2月4日 「元慰安婦21人中16人が合意に肯定的」と韓国外務省
2月7日 韓国国防相が、日本との軍事情報保全協定締結検討表明
2月16日 杉山信輔外務審議官が、慰安婦に「日本政府の調査で強制性を証明する証拠見つからず」
4月13日 韓国総選挙
財団設立?少女像の移転?
■
合意の背景
米国からのプレッシャー
北朝鮮の挑発の動き、中国の台頭で日韓協力の必要性拡大
双方の国民からの進展希望
日韓国交正常化50年の節目を生かしたいという両国首脳の考え
■
経過
12月28日の電撃合意
ソウルの日本大使館では、最後まで合意できるか分からなかった。
韓国側は担当記者へのブリーフをしていた。その内容は、あの安倍氏が謝罪した。成果だ。
日本側は「最終的」に決着したいと申し入れ、韓国側が不可逆的という表現を入れた。
少女像について、ユンミヒャン氏は、もう私の手を離れたと話すなど冷静だった。しかし一連の日本からの報道で姿勢を変えた。
韓国外務省の当局者は、事前に元慰安婦を訪問して、合意の内容について説明していた。
合意文書作りは韓国側の要請で、最終的に保留された
■
論点
評価については賛否両論が出ている。今回は安倍政権の支持者の中で特に意見が割れている。合意を見直すよう求める集会が相次いでいる。
2月7日には、「張れ日本!全国行動委員会」集会。
水嶋悟る幹事長は「河野談話と比較にならないほど国家的な重大な過失だ」、中山恭子「日本が獣のような残酷な国だとみられないようにしなければならない」
10日にも保守派の評論家が批判の集会を開いた。
その中の1人、拓殖大学客員教授の藤岡信勝氏は「世界中の人が慰安婦=性奴隷説を信じ込まされ、浸透している。だが、日本政府は事実に基づく反論をしてこなかった。しかも、反論しないだけでなく、外務省は反論させようとしない」。[6]
不満論を見ると、
1)安倍首相が元々、この問題について言っていたことと今回の合意が矛盾する
2007年に河野談話否定発言をしているのに、米国の圧力で認めた
2)1965 年日韓基本条約・請求権協定で「すべて解決済み」なのに、合意する必要はなかった
3)合意が文書化されなかったので、効力に疑いがある
4)問題への旧日本軍の関与を認めた
5)首相がお詫びの意向を表明した
6)再び韓国側が問題を蒸し返すに違いない
7)慰安婦は性奴隷、強制があったとの誤解解けず。日本人の名誉回復ができていない
逆に評価する意見の中を拾ってみる
1)安倍首相への「歴史修正主義」の批判がこれで消える
2)韓国が日本と合意したことで、中国と韓国が歴史問題で共闘を組めなくなった
3)北朝鮮問題で連携しやすくなった
4)歴史問題で日本が反論する機会になる
5)法的責任をあいまいにした[7]
一方、慰安婦問題を積極的に取り上げてきた識者らからはこのような批判が出ている。[8]
1) 責任の所在があいまいなままで、河野談話より内容的に後退
2) 性奴隷だったことを否定
3) 賠償を行わないと宣言
4) 日本政府関係者は、被害者を訪問してお詫びを伝えるべきだ
評価する意見としては
1)合意は不十分だが、これを土台にして市民同士が和解を進める努力を
■
なぜ安倍首相は合意したか
米国からの要請。国内からの批判。
解散戦略もからんでいるのではないか?
外交政策での批判要素を消す狙い。
2014年11月21日解散を表明した際の状況と似ている。
小渕優子経産相、松島法相スキャンダルが相次いだ。支持率は高い。しかし国民的論議になりそうな外交安全保障を争点からはずしたい。11月10日に3年ぶりの日中首脳会談が実現した。「争点」がなくなった。解散を決意する。
日中首脳会談実現。焦点はアベノミクスに絞られた。
今回も参院選、もしくは衆参同日選を念頭に置いていた可能性がある。
■ 合意の成果と懸念
私は、今回の合意について、合意した事自体、歓迎はしたい。合意がなければ、日本と韓国の国民レベルの感情はますます対立していたはずだ。日本の中の韓国に対する感情は落ち着きを見せつつある[9]。外交的には、ぎりぎりのタイミングで滑り込んだと思う。賛否は日韓で拮抗している。
韓国では若い人ほど今回の合意に批判的だ。
民間調査会社の韓国ギャラップが8日にまとめた韓国での世論調査。旧日本軍の従軍慰安婦を巡る日韓合意について「評価しない」が54%となり、「評価する」26%の2倍以上になった。否定的な回答の理由では元慰安婦の意見を聞いていないとの指摘が最も多かった。
再協議すべきは58%で、必要ない28%を上回った。ソウルの日本大使館前に設置された従軍慰安婦を象徴する少女像については「合意内容を日本が履行するかどうかに関係なく移転すべきでない」が72%に達した。「日本が履行すれば移転してもよい」は17%だった。
ただし、特に安倍首相の慰安婦問題に関する認識は変わっておらず、本当の狙いは選挙対策だったとの疑念もある。自分の支持層からの反発を意識して、国際的に日本の正当性をアピールし、新たな摩擦を呼ぶ懸念も残っている。
1965年の日韓国交正常化でも、同じような構図があった。日本側は、植民地支配の合法性をめぐって立場を譲らず、日韓併合条約調印の1910年8月22日以前に結ばれた条約・協定について「もはや無効」とし、「朝鮮において韓国が唯一の合法的な政府」と確認し合った。こういった原則論を譲らなかったことで、相手側に精神的な不満足感を残し、問題がくすぶる結果となった。
他国でもやっていたとか、誤解が残っているという主張は言い訳にしかきこえない。1965年当時と違い、慰安婦問題は米国を舞台にしたロビー合戦に発展し、女性の人権問題という新たな角度から焦点が当たっている。
事実を受け入れたうえで、合意を実現するために努力すべきだろう。
その手がかりは韓国が設置する財団にあると考える。韓国の外交当局者から聞こえてくる話では、財団は単にお金を運営して、その果実を被害者に送るものではなく、研究機関としての機能を持たせるという。
正式な発足は4月以降となりそうだが、慰安婦問題をめぐる対立を少しでも緩和できるような活動を、この財団をベースにやれる可能性がある。
[1] (1)慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認する。(2)軍の関与の下、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた問題として日本政府は責任を痛感する。安倍内閣総理大臣は心からのお詫びの気持ちを表明する。(3)元慰安婦を支援するため、韓国政府が財団を設立し、日本政府が10億円程度の資金を一括拠出する。(4)両国政府は今後、国連など国際社会で本問題について互いに非難、批判することは控える。(5)少女像については、韓国政府が関連団体との協議を通じ解決に努力する。
[2] 私は、日本国の内閣総理大臣として改めて、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを申し上げます。www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/letter.html
[3] 「小渕総理大臣は、今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受けとめ、これに対し、痛切な反省と心からのお詫びを述べた。
金大中大統領は、かかる小渕総理大臣の歴史認識の表明を真摯に受けとめ、これを評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を乗り越えて和解と善隣友好協力に基づいた未来志向的な関係を発展させるためにお互いに努力することが時代の要請である旨表明した」
[4] 同じ民主主義国で共に米国の同盟国という共通の「価値観」によって関係改善が可能だと判断していた。ところが感情のボタンの掛け違いが、両首脳を遠ざけることになる。「安倍官邸vs習近平」読売新聞政治部編224p(新潮社)
[5] 慰安婦問題で朴大統領は 1.日韓合意が履行されることで、被害者の名誉と尊厳の回復を図る。2.合意に旧日本軍の関与と日本政府の公式謝罪など被害者の願いを反映、3.日韓の信頼重要 4.100%満足ではないが、最善を尽くした。
[6] http://www.france10.tv/social/5552/
[9] 時事通信社が行った2月の世論調査(11?14日実施)によると、「嫌いな国」(複数回答)に韓国を選んだ人は前月調査から5.1ポイント減の38.6%。13年8月から40?50%台が続いており、30%台に下がったのは2年7カ月ぶりという。調査結果について、同社は「昨年12月の慰安婦問題をめぐる日韓合意を契機に、核実験や長距離弾道ミサイル試射を強行した北朝鮮への対応など政府間の協力を強めていることが影響したもようだ」と分析。
[10] 国連人権委員会での杉山晋輔外務審議官発言 まず書面でも回答したとおり、日本政府は日韓間で慰安婦問題が政治・外交問題化した1990年代初頭以降、慰安婦問題に関する本格的な事実調査を行いました。しかしながら日本政府が発見した資料の中には軍や官憲による、いわゆる強制連行というものを確認するもの、確認できるものはありませんでした。
[11] 同 ちなみに、書面で回答に添付したこの両外相の共同発表の文書の中にも「性奴隷」という言葉は1カ所も見つからないのも事実であります。従って、今、ゾウ委員からご指摘を受けましたが、非常に残念なことに、ゾウ委員のご指摘は、いずれの点においても、日本政府として受け入れられるものでないだけではなくて、事実に反することを発言されたという風に、申し上げざるを、残念ながら、申し上げざるを得ないということを明
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