2019年7月4日木曜日

半導体材料の「輸出規制強化」で問題は解決しない 安倍首相の発言を点検する


日本政府は4日、半導体などの製造に必要な材料3品目の「輸出規制強化」を予定通り実施した。スマートフォンやテレビなどの画面に使う「フッ化ポリイミド」、半導体基板に塗る感光材の「レジスト」、半導体洗浄に使う「フッ化水素」だ。
この措置は、日本と韓国で大きな波紋を呼び起こしている。韓国の大法院(最高裁)が昨年出した、徴用工に関する判決が背景にある。
 しかし日本政府は、直接の報復や自由貿易に逆行するものではなく、安保上、当然の措置であり、「輸出規制強化」は誤解だと、釈明に躍起となっている。
本当にそうなのか。そもそも問題の解決に役立たつのか。この決断を最終的に決めたと思われる安倍晋三首相の発言を追って、検証してみた。
その前に、判決について簡単に触れておこう。日本企業に被害者への慰謝料を求めており、日本企業の資産の差し押さえも進んでいる。当初は8月にも資産の売却、現金化され、原告に渡されるとみられているが、政治的混乱を避けるためか、どうやら年末まで延びそうな雲行きだ。
日本政府は、この問題で日韓請求権協定(1965年)に基づく仲裁委員会の設置を求めているが、韓国側は応じていない。
代わりに、G20サミット直前の6月19日、韓国外務省は「日韓の企業が自発的な拠出金で財源を用意し、原告(徴用工ら)への慰謝料を支払う」との案を日本政府に伝えた。
しかし日本政府は「受け入れられない」(安倍晋三首相)と拒絶している。韓国政府が自主的に、被害者に支払うべきだとの姿勢だ。
今回の輸出規制強化は、韓国の韓国のメーカーが材料不足となって半導体などの生産に支障を来すことも予想されている。影響は日本だけでなく、世界にも広がるとの見方もある。
エコノミストの多くは、日本政府の決定に批判的だが、問題は、この措置が徴用工判決をめぐる韓国政府への「報復」なのかどうか、世界貿易機関(WTO)が厳しく禁止する輸出統制に該当するのかどうかだ。
安倍首相もこの問題について触れているので、できるだけ正確に引用してみる。
3日夜、テレビ朝日のニュースステーションに出演した安倍首相は、コメンテーターの後藤謙次氏から、「G20の首脳宣言で高らかに自由貿易をうたったのに、韓国への措置は矛盾していないか」と質問された。
安倍首相は、やや早口でこう答えた。
「全く違います。これは自由貿易の話とは違います。どこの国も管理貿易はしています。安全保障上の義務がかかっている。それが果たせないとなると優遇措置をやめる。誤解している人もいると思いますが、金融措置でもないし、通常の貿易に関税をかけるわけでもないのです。国際的約束が守れないのなら残念ながら、優遇措置を取ることができないという判断をしております」
確かに、正確に言えば輸出規制強化ではなく、優遇措置を見直しと言うべきかもしれない。ここで言っている「国際約束」や安保が何を指すのか、安倍首相は明らかにしていない。
しかし、国際約束とは、日韓が植民地支配に関連する請求権に関して取り決めた日韓請求権協定を指しているのは間違いない。
この協定では、両国が相互に請求権問題について「両国間の請求権の完全かつ最終的な解決」と盛り込んでおり、韓国最高裁の判決はこれを破っているという論理だ。直接の引き金が、「徴用工判決」にあることは安倍首相も隠さなかった。
さらに安倍首相は、安保問題にも言及している。韓国に輸出した製品が、北朝鮮に流れる危険性があると言いたいのだろう。
続いて後藤氏が「(この問題の)出口はどこに置いているのか。日本の中小企業への影響は」と尋ねると首相はこう答えた。
安倍首相は、「それは世耕経産大臣がすでに会見で述べているように注視していく。どうしてこうしたかというと、国際約束をホゴにされたからであり、普通の手続きに戻したということす」
今回の措置は、日本にも影響があることを認めている。
後藤氏は最後に「それは分かるが、国民の感情を収めるのもリーダーの大きな役割ではないか。もう1度日韓首脳会談をやる考えはないか」と畳みかけた。
安倍首相は、身振り手振りを交えながら、「先般、先方が我々に提示してきたもの(徴用工の解決案)は、我々がとても飲めないものを今出してきた。後藤さん、何もやらなかったら、水産物(の輸入禁止)で、どこかの県を追加するかもしれませんよ。日本が、やるべきことはやるというのは国際環境の中でも常識の範囲内なのだろうと思う」
日韓の首脳会談を行う気はなさそうだ。
それでは徴用工問題は、どういう問題だと安倍首相は考えているのだろうか。
3日に日本記者クラブで行われた党首討論会で安倍首相は、記者から「歴史認識問題を通商問題にからめてよいのか」との質問を受け、つぎのような考えを示した。
「その認識は間違っている。徴用工問題は歴史問題ではなく、国際法上、国と国との約束を守るかということです。1965年に請求権協定でお互いに請求権を放棄した。この約束を違(たが)えたらどうするのか。(2015年の)慰安婦合意も首脳間、外相間の合意です。国連やオバマ米大統領も評価してくれました。それが守られてない」と反論した。
徴用工判決だけではなく、朴槿恵政権と結んだ慰安婦合意を事実上破棄し、慰安婦救済のために設立した財団を文在寅政権が解散させたことも、今回の措置の理由と考えていることを明らかにしている。ただ、請求権に関する認識は正しくない。放棄はせず、裁判で訴えても認められない。所謂外交保護権が放棄されたのだ。
日本の措置については、ただちにWTOの協定違反になるとは断定できず、「今後、協定違反になりかねない」という見方が多い。
WTO協定の基本原則には、関税など以外手段による輸出入の数量制限を禁止している(GATT第11条)。
安倍首相の言うように、優遇措置の見直しだけでなく、実際韓国への輸出が大幅に停滞し、経済的混乱が広がれば、協定違反という批判が高まり、日本政府は身動きがつかなくなる。
また、徴用工裁判について韓国政府が譲歩しなければ、解決の道筋は見えない。文在寅政権は、6月30日の米朝首脳会談の仲介成功で、支持率が52・2%と今年最高値を記録している。
今回の日本政府の措置に折れる気配はない。私の予想では、被害は大きいといいつつも、特に対抗措置は取らないだろう。そうすることで日本側のやり方の強引さを世界にアピールできるからだ。
安倍首相の「強手」は、すくなくとも徴用工問題の解決の糸口にはなりそうにない。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注目の投稿

金正恩朝鮮労働党委員長新年辞

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14970  転載です <参考資料>  朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は、毎年1月3日頃に「新年の辞」の基本体系を理解するための要旨を掲載している。参考までに、その全文翻訳を添付する。 「今年の新年の辞の基本内容...

Blog Archive

ラベル

マイブログ リスト