2019年6月9日日曜日

常套句に頼らない報道を心がけたい

6月7日に慶応大学で発表した文章です。

                  五味洋治 東京新聞

「反日、文在寅大統領は北朝鮮に前のめり。常識が通用しない国なので相手にしないでいい」―冒頭から刺激的なことを書きましたが、最近、日本での報道によく出てくる常套句をつなげると、こうなります。日韓関係は確かに難しい状況です。それは、戦後日韓関係を築いてきた1965年体制を揺るがしかねない事態になっているからです。しかし私は、こういった常套句を使わないように心がけています。もちろん、韓国側にも目立ちます。日本は右傾化しており、嫌韓が広がり、真摯な反省をしていないなど。わかりやすいかも知れませんが、相手を決めつけることは危険です。日韓の往来は年間1000万人を超えています。一般の国民は政治に動かされなくなっており、冷めた目で両国の報道を見ているのではないでしょうか。どう考えても、日韓は、違いよりも共通項が多い。少子高齢化、若者の就職、家族関係、北朝鮮への対応。それこそ枚挙にいとまがありません。常套句に安易に頼らず、日本側には文大統領が目指すものや、支持者、韓国社会の変化など、よりきめ細かな視点が必要でしょう。韓国のメディアにも同じ事をお願いしたいと思います。

日韓関係が「急な崖」を転げ落ちるように悪くなったのは、昨年、元徴用工をめぐり日本企業の賠償を求める判決が韓国で出たことが発端でした。さらに不幸なことにレーダー照射、韓国国会議長による天皇陛下への謝罪要求などさまざまなニュースが重なって、日本のメディアは韓国批判が大勢を占めています。

韓国最高裁の強制徴用判決と関連し、日本政府が「賠償問題は解決済み」として韓国に抗議しています。このことについて共同通信が今年1月に世論調査したところ、回答者の80.9%が「支持する」と述べています。「支持しない」は11.3%にとどまっていました。他のメディアの調査でも似たような傾向が現れています。この数字が、日本側のいらだちを象徴しています。

残念ながら、この問題の歴史的背景について関心を持つ人は多くありません。あくまで「またか」といういらだちです。「韓国がゴールポストを動かし、身勝手な主張をしている」という意識でしょう。

最近、ユーチューブを通じて韓国のニュース報道をそのまま見ることができます。この判決を含む日韓関係について、意外にも韓国では、トップニュースではなく淡泊な報道でした。日本では「韓国叩き」が盛んですが、韓国では「日本無視」が起きているという人もいます。

韓国の新聞の日本語版は日本でよく読まれていますが、やはり政治、経済に偏っており、韓国の実状を伝えているとは言えない気がします。

一方、日本の新聞が、韓国政府、文在寅大統領について「反日」という見出しを使うことが増えています。この2文字を見るたびに、私は後味の悪さを感じます。本当に日本を意識しての行動ではないようなものまで、「反日で人気取りをしている」などと書いているからです。

 もっと極端な例もあります。今月出版された韓国に関する本の見出しです。

はじめに―南北朝鮮、このまま放置して良いのか 第1章 文在寅は「金正恩の首席報道官」 第2章「積弊清算」で事実を捻じ曲げる韓国 第3章 文在寅の恐怖政治の実体 第4章韓国は北朝鮮に呑み込まれる 第5章なぜ韓国はつねに「反日」「親北朝鮮」なのか 第6章文在寅政権を倒す秘策とは? おわりに―文在寅政権の独走を止めよう

 韓国の野党顔負けのバッシングですが、日本でかなりな読者を獲得しています。今日ここに来て下さっている韓国の若手の記者さんたちに知ってほしいと思います。

「日本は余裕がなくなっている」「右傾化の証拠」と考えるかもしれません。しかし、日本中にも、韓国を深く知ろうという動きはあります。

 例えば季刊の旅雑誌「TRANSIT」が昨年暮れ、「韓国・北朝鮮 近くて遠い国へ」という特集を組みました。この雑誌は、200ページを超える本格的な旅雑誌です。韓国人の生活、食、軍隊生活など幅広く取り上げたほか、韓国南部の港町、統営や麗水、光州について詳細なルポを掲載しました。ここまで足を延ばす人がいるのかと思いましたが、大変な反響があったそうです。政治・経済以外の韓国を知りたいという人は確実に増えています。

 また、私の友人はブログを通じて韓国第3の都市・大邱について発信し、地元の観光大使に選ばれました。大邱市側も、日本時代の建物をリノベーションし、カフェなどとして活用し、多くの日本人女性観光客を集めています。日本では韓流ビジネスに関する交流会も盛んです。逆に、知り合いの韓国人女性は、四国にある88カ所の霊場巡りの体験を本にし、韓国人を四国に案内しています。

 こういった民間レベルで広がる「win winの関係」に注目し、後押しすることも必要でしょう。難しい状況だからこそ、一歩立ち止まり、メディアが果たせる役割を考えたい。

 韓国の著名な作家であり、政治家でもあった柳時敏の「アリレオ」というユーチューブの番組をよく見ます。そこで、故盧武鉉大統領の発言を知りました。盧氏は、日本との歴史問題には厳しい人でした。2007年11月11日、テレビのインタビューでユーモアを交えながら、「南北問題、東北アジア問題を解決するためには、親米、親北、親中、親ロ、親日もしなければならない。もちろん古典的な意味の親日ではないけれど」。

 この言葉は、今も通用すると思います。韓国メディアの報道を見ていると、対米関係で日本に負けている、政府は何をしているのかという記事が目につきます。対抗意識ではなく、日本の力をうまく利用し、韓国の飛躍や朝鮮半島問題の解決を目指すという発想の転換が必要ではないでしょうか。

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