2012年に書いた文章です。
北朝鮮に近い中国の村で、二十代後半の北朝鮮女性と会ったのはもう五年ほど前。冬だった。外は零下二十度だが、部屋の中はオンドルがよく利いていた。彼女は、ブローカーに連れられ、朝鮮半島に故郷を持つ中国・朝鮮族の男性に、花嫁として売られ、子供を産んだばかりだった。
当時のメモを見ると、男性がブローカーに払ったのは六千元(約八万円)だが、中間でピンハネされ、北朝鮮で暮らす女性の家族は三百元(約四千円)だけだった。
中国に来た理由を聞くと、家事をする手を休めた彼女は、「ご飯がお腹いっぱい食べられ、肉もキムチもある」と答えた。手土産に持っていった粉石けんを「おむつを洗うので助かる」と、とても喜んだ。
もう一つ中国にあるのは「自由」だろう。中国も統制社会だが、母国に比べ自由度は高く、生活も商売も楽だ。
北朝鮮は、金正日総書記死去後、三月末までの百日間を服喪期間としており、この間に脱北した場合、三代にわたって処罰するとしている。
中国側も摘発を強化し、北朝鮮側に送還している。政治的な「難民」ではなく、生活に困窮した「違法入国者」という理由だ。送還後は厳しい処罰が待っている。韓国政府は中国にに抗議し、外交問題に発展しつつある。
五年前会った女性は、「家の近くで車のエンジン音がすると、警察ではないかと怖くなる」と話していた。彼女や子供は元気にしているだろうか。(五味洋治)
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